転勤妻 灼熱印度
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サイト【転勤妻】 運営主宰者 大向 貴子

第3回  何とも不思議 - 1

インドという国の感想で「奥が深い」と表現する人が多い。
何について奥が深いと感じるかは人それぞれだが、こちらで暮らしているとその表現が的を射ているように感じる。
実際インドで暮らしていると不思議だと思えることに数多く出会う。
もしかするとこの「不思議」が奥の深さにつながるのかもしれない。

インドに進出している日本企業の多くは駐在員に対し数ヶ月に一度買い出し休暇を与えている。
インド国内では入手できる食材が限定されているため、タイやシンガポールなどへ食料品の買い出しに出かける。何も知らない最初の頃は買い出し休暇なんて「何と大げさな」と思ったものだが、今ではこの休暇のありがたみを痛感している。
私が感じた最初のインドでの不思議は食料品に関する買い物事情だった。

第1回目の記事に記したとおりインドでは生鮮食料品は露天商で買うのが一般的である。
外資が導入され始めスーパーマーケットが大都市に少しずつ出来始めているが、まだ一般の暮らしには浸透しているとはいえない。
お世辞でも衛生的とはいえない路上での買い物はときには「行」という言葉も浮かぶ。
長く続く夏の露天商は日本では見たことがないほどの大量のハエが飛び回っている。
それを片手で掻き分けながら野菜や果物を選び買うことになる。
品揃えも決して豊富とは言えず、見た目もすっかり萎れている野菜ばかりが並んでいる。
そのような露天商市場が街中に点在している。
今ではだいぶ馴れたが、来た当初はこのような買い物の環境に絶望する毎日だった。
厳しい環境下では一刻も早く買い物を終わらせ立ち去ることばかりを考えてしまう。
今のところインド人にとっても買い物を楽しむという感覚はまるでないようだ。
使用人を雇うことが一般的なインドでは買い物はメイドの仕事。
物を買うための環境を整えるという点はあまり重要視されていないのかもしれない。


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大きさ三畳ほどの露天商が連なる市場
食料品や雑貨を扱う街の商店

 

生鮮食料品以外の食品や雑貨などは小さな商店で購入することになる。
何にしても種類が多くないため選択の余地はあまりない。
店内に入ると天井近くまで商品が陳列されており、客が指定すると店員がはしごを上って取る。
手渡される商品はどれもだいたい砂がかぶっているため、レジでお金を払うときには両手が真っ黒になっていることがある。
最初はあんなに抵抗があったザラザラした砂の感触にも日常化することで何とも思わなくなった。
ごくたまに砂粒のまったくついていないものに出会うと感動することもあるのが面白い。

このような買い物で成り立っている生活の中に当初から私が感じている「不思議」がある。
街中あふれるようにいる人々と露天商や市場、商店などの数のバランスが取れていないように思うのだ。
見る限りどこの露天商でも人が押し寄せて買い物をしている様子は窺えない。
店自体も大きな構えというものはなく屋台を少し大きくしたものが連なっている市場がほとんどである。
11億人という桁外れな人口を保有するインドならもっと無数に商店が存在し買い物客であふれていなければおかしいのではと思ってしまう。
首都であるデリーでこの店数なら11億人の胃袋はどのように満たされているのだろう。

インドには外国人である私が知らない流通やシステムなど「奥が深い」何かがあるのだろうか。
いまだに真相がわからない私の「不思議」である。

 


2006/12/15

つづく

 
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