転勤妻 灼熱印度
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サイト【転勤妻】 運営主宰者 大向 貴子

第7回 まだまだ低い女性の地位

字が読めるということは当たり前。
義務教育システムが隅々まで行き渡っている日本で育った私達は、そう考えるのが普通だろう。
インド人女性の識字率は54%。
男性より2〜3割程度低いという。
現在インド社会の労働人口における女性の占める割合は、わずか6%に過ぎない。
半数近くが、字を読めずに生涯を終えてしまうインド女性の人生。
根強く残るカースト制度や貧困で教育を受ける機会がなく、労働と家事への従事がそれら女性の役目となっている。

砂埃の多いデリーでの生活には、スイーパー(掃き掃除)という仕事が欠かせない。
赴任当初私が居住するアパートで働く人から、1人の女性をその仕事にと紹介された。
笑顔がにこやかな健康的な印象のインド人女性。
こちらはヒンディー語を全く話せないため、日本から「旅の指さし会話帳」を持ってきていた。
指一本で話せるという人気シリーズの会話本である。
これで何とかコミュニケーションをとろうと、安易に考えていた。
早速勤務時間などを聞くために、単語と文章を見つけ指さしながら彼女に見せた。
すると彼女は笑いながら手を横に振り、その本を見ようともしない。
字が読めなかったのだ。
無邪気に笑っている彼女を見ながら、私のほうがショックを受け、何故か悲しい気持ちに襲われたことを今でも鮮明に覚えている。
結局コミュニケーションが取れないということで、残念ながら採用をお断りさせていただいたが、インド人女性の地位を少し感じる出来事となった。


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路上清掃や力仕事などは識字率の低い女性が多い

インド社会ではまだまだ男児を望む声が多く、貧しい家庭では女児は借金と同じようなものと考えられている。
その原因は主に結婚の際に女性が嫁ぎ先に持参金(dowry)を持っていくという慣習が残っているからだとされている。
「持参金が少なかったから」という理由で、花嫁が嫁ぎ先で焼殺されたという事件は数多く残っている。
家庭内で起こる事件のため目撃者がおらず、多くの場合が自殺かコンロによる引火事故として処理されてきた。2001年にはこの持参金の不満から。若い花嫁が手首を切られ髪の毛が頭皮からちぎられる暴力事件がデリー郊外で起こった。
首都であるデリーの近くで、しかも今からわずか6年前の出来事だ。
現在でも殺されないまでも、家庭内での夫から妻への暴力は珍しいことではないという。

インドには死んだ夫を荼毘に付すとき、その火中に妻も自らの身を投じて死ぬことを強いる「サティー」というヒンドゥーの古い習慣がある。
1892年に統治していた英国が違法として禁止したこの習慣だが、近年も残っているという。
報告のあったケースのうち約320件で責任を問われず、法廷で訴追された事件は全体の10%にも満たなかったという。

色鮮やかできらびやかなサリーを纏うインド人女性には、このような扱いを受けている背景がある。
女性の人権が重視されないまま急速に経済成長していくこの国の将来には、何が待っているのだろう。
連日のように「株価最高値を更新」などというニュースが踊るインド。
人口の約半分を占めるインド人女性の「地位向上」という大きな問題が、このまま置き去りにされて欲しくないと切実に願う。

 


2007/4/16

つづく

 
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