転勤妻 灼熱印度
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サイト【転勤妻】 運営主宰者 大向 貴子

第9回  「超」がつくほど学歴社会

最近日本のマスコミでもよく取り上げられている、インドの教育事情。
一例として、小学生で二桁の掛け算を暗記する様子などがたびたび紹介されている。
近年教育熱は高まる一方で、塾や予備校なども乱立しており、最近では日本の「公文」もデリーに進出した。
何故それほどまでに勉強をしなければいけないのか。
それは歴然とした「学歴社会」が、彼らの将来を待っているからである。

学校制度は、国土の広いインドでは州によって違う。
基本的な教育制度は「10・2・3制」となっている。
10のうち、1〜8年生までが初等教育、その後の9、10年生が中等教育にあたる。
12年生までは前期高等教育,12年生以降は3年制と4年制の大学にあたる後期高等教育を選択できる。
公立私立を問わず、進級テストを行い、成績が悪いと留年させるほど厳しい。
10年生で日本の高等学校にあたる上級中等学校に入るためと、12年生で大学・学部を決定する「全国共通試験」が実施される。
この試験の結果が、まさしく学生の人生を左右する。

インドでは政府関連や大企業で働くことは、高収入や高待遇などが約束されることになる。
そのためには一流大学へ入学しない限り、彼らには道はない。
中程度の大学では、その道は完全に閉ざされる。
国内最高レベルといわれる理系の大学、インド工科大学。
近年優秀なIT技術者を、卒業生から数多く産出している。
学生の憧れであるこの大学は、競争率が60倍、世界一の難関校である。
ほんの一握りの人しか、なることができないトップエリート。
その狭き道を目指し、学生たちは死に物狂いで机に向かっている。
試験シーズンになると重圧に耐えかねて、或いは結果を悲観して自殺する子供の記事もたびたび新聞で目にする。
熾烈極まる高学歴への戦いに勝ち残るのは、並大抵ではない。


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インド最高学府 インド工科大学(IIT)
デリーにすでに3校ある「KUMON」

 

現在も階層社会が根強く残っているインドでは、社会における富裕層は上位カーストが多くを占めている。
学歴の面においても、彼らは圧倒的に有利な立場にいる。

初等教育から公立と私立では、教師の質などに大きな差がある。
公立学校の教師は欠勤が多く、まともに授業を実施していない教師も少なくないという。
このような状況では、学費が高くても、親は当然子供を質の良い私立へ行かせたがる。
家庭教師や塾なども経済的に余裕がない限り、子供に与えることはできない。
その結果、初期の段階から高い教育を受けられるのは、恵まれた家庭の子供のみとなる。
公立の小・中学校の授業料はほとんど無償となっているが、貧困で働かざるを得ない子供たちや親の無理解などで、学校へ通えない子供も多い。
桁外れに多い人口や使用言語が多岐に渡っていることも、教育が行き届かない理由と言われている。
10年生までに中途退学してしまう割合は半数にものぼるという。

富裕層の子供は高学歴を得られ、将来はまた富裕層に属する。
それに対して、貧困層の子供は義務教育ですらも受ける機会を奪われる。
字も満足に読めず、貧困から脱出するすべはない。
学歴社会へのスタート地点に立つことすらもできない子供たち。
この不平等な連鎖が続くかぎり、取り残されていく子供の数はなかなか減らない。

 


2007/6/15

つづく

 
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