転勤妻 灼熱印度
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サイト【転勤妻】 運営主宰者 大向 貴子

最終章  インドがくれた「スパイス」

インドという国は、好きになるか嫌いになるかのどちらかだという。
旅行をした知人の間でも感想は「魅せられた」、或いは「二度と行きたくない」かの両極端に分かれる。
これは旅行だけでなく、この地に暮らすことでも同じ感想になるのではないかと思う。
インドを嫌いになる理由は簡単、かつ満載だ。
不衛生な環境、喧騒な街、あふれるような人、物乞いの多さ、階層社会など枚挙にいとまない。
どんなにタフな人でも、精神的に参り疲弊しきってしまうことがたくさんあるのがインドだ。
それでも何かを求め、世界中から大勢の人がここへ集まってくる。

インドで暮らしていくことはたやすいことではない。
複雑に入り組んだこの国を、外国人が数年暮らしただけで理解などはとてもできない。
時間とともに慣れ、自分なりの生活を築き上げつつある今でも葛藤は続いている。
あまりにもインド独自の特色が強いため、ときおり閉塞感と疲れを感じるのも確かだ。
その一方で、この国や人が持つ、底知れぬ魅力の一片をふと感じるときがある。

11億人という人口に埋もれまいと生きているかのような人々。
圧倒的とも思える活力に、まるで国が押されているかのようだ。
誇り高きインド人は、自己主張ばかりかと思うと、ときおり細やかな心配りを見せる。
一度信頼を得ると相手の周囲にも敬意を払う。
そこまでしなくても、と思うほど配慮を怠らない。
普段が普段だけに、その場面に出くわすと感動はひとしおのものとなる。


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ムガル建築初期の代表作 フマユーン廟
いわずと知れた世界遺産 タージマハル

イスラム最初の記念碑 クトゥブミナール

ヒンズー教と仏教の二大宗教を生み出したこの地は、どこへ行っても遺跡の宝庫だ。
悠久の流れに受け継がれてきた文明の深さと歴史には、驚きとともに感嘆する。
広大なインドは、行く場所すべてで全く違う一面を見せてくれる。
同じ国とは思えないような多種多様な文化。
人はその多様性と神秘性に、知らず知らずに魅せられていく。
「ここは何か人生に影響を与えてくれるのでは」と、勝手に思わせて惹きつける。
その強い何かを持っている場所が「インド」なのだろう。

私自身ここでの生活を通して、自分の人生観が変わったとは今はまだ感じていない。
好きか嫌いか、自分でもはっきりわかっていない。
それでも縁あって、暮らすことになった国インド。
経験全てを、私なりに肯定的な見方で受け止めていこうと思っている。

最近こんな風に考えている。
もしかすると、ピリっとした香辛料が私の人生に加えられたのかもしれない。
体験するすべての出来事が、インドならではの「スパイス」と考えれば、何となく楽しい気持ちにもなってくる。
そのスパイスが今後の人生に、どのような影響を及ぼすのかはまだまだわからない。
一時の刺激で終わるのかもしれないし、じわじわと思いもよらない効能が表れていくのかもしれない。
今はただ、与えられたインドでの日々を大切にし、長い目でこのスパイスがもたらす結果を楽しみにしてゆきたい。

2007/9/18
- 完 -


 
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