【Fami Mail】 vol..29 2003.3.17
<特別寄稿>
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イラクとの戦争に向けて
普通のアメリカ人はどう考えているのか
高橋 純子
(現地教育コンサルタント、大学講師/マンハッタン在住)
〜マンハッタンからのメール〜
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テレビをはじめ各メディアでは連日のようにイラク情勢についての報道がされている。緊迫した状況の中、先週末には東京の日比谷公園で大規模なイラク攻撃反対デモが行われた。どうにかしてイラクへの攻撃をやめさせようと世界中で反戦デモが行われる中、アメリカ合衆国ブッシュ大統領がどうしてそれほどまでに攻撃にこだわるのか、日本にいる私達には理解しがたい部分が多い。私達が普段目にするテレビや新聞等ではなかなか見えてこないアメリカ合衆国民の考え方、そしてイラク攻撃の裏側について実際にアメリカで生活する中で、この緊迫した情勢を肌で感じている日本人女性によるレポートを紹介する。

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 3月も2週目に入り、アメリカはいよいよイラク攻撃を数日以内にも開始しそうな気配となってきました。たぶんこのメールが配信される頃にはもうすでに戦争が始まっているかもしれません。私はジャーナリストでもなければ、反戦運動家でもありません。アメリカに住んでいるただの一般人として、この戦争に関しては言いたいことがいろいろあるのですが、ブッシュ政権の姿勢は米国一般市民の意見を必ずしも反映したものではない、ということを米国外の人々にも知ってもらうためにこのメールを書いています。

 先月の2月15日に世界中で行なわれた反戦デモは、ヨーロッパ諸都市でもかなり大規模な様子でしたが、ニューヨークでも氷点下の中10万から20万もの人々が集まり、私の友人など一般の人も多く参加したようです。これには反戦運動家や学生達だけでなく、幅広い層の、普通の人々が本当にたくさん参加したのです。しかしこれらの人々は、サダム・フセインを擁護しているわけでは全くありません。戦争という手段は避けるべきだと訴えているのです。

 ほとんどのアメリカ人はサダム・フセインが危険な人物で、生物・化学兵器を隠し持っていて、彼の武装解除をすることは世界にとっても大事だと考えています。もちろん愛国心の強いアメリカ人のこと、いったん戦争が始まれば政府を支持するほうにまわる人が大半かもしれません。しかし、武力行使以外のオプションも考えず、国際社会の意見も聞かず、一刻も早く、なにがなんでも戦争に突入しようとするブッシュ政権の態勢にかなりの疑問を感じている人は、米国内でも少なくありません。ブッシュは「戦争反対イコールイラクの味方」という単純な発想しかなく、この世界中で起きた反戦の波も無視して、愚かな行動を起こそうとしています。

 先日の3月6日に全米でテレビ中継されたブッシュ大統領の記者会見では、選ばれたジャーナリストから様々な質問が彼に浴びせられました。中には国連やヨーロッパ主要諸国との対立、NATO内での亀裂を指摘した質問や、全世界の多くの人々が戦争に反対しているにもかかわらず、武力行使を主張するアメリカは傲慢だと見られているが、そんな状況に一体どう対処するのか、といった批判めいた厳しい質問も飛びだしました。しかしブッシュの答えは終始一貫して同じ。「2001年9月11日のテロを忘れてはいけない。」「私はただアメリカ市民を護ることだけが使命なのだ。」「自国民を護るためなら国連からの許可など必要ないはずだ。」と繰り返すばかりでした。

 一体何が彼をここまで戦争に執着させているのか?どうしてこんなに戦争を急いでいるのか?本当にフセインはアルカイーダなどのテログループと手を結んでいるのか?

私の疑問に対して、ある親しいアメリカ人の意見は次のようでした。

 ブッシュは父親のジョージ・ブッシュ・シニア元大統領の影響を過大に受けていて、彼が湾岸戦争の時にフセインを現体制からひきずり降ろせなかった後悔から、息子としてはなんとしてもそうしなければならない使命があると信じている。そのことがラムズフェルド国防長官やチェイニー副大統領などの極右の好戦派に待ってましたとばかり拍車をかけて、去年のうちから3月には攻撃だ!という計画を決定した。今年の1、2月にすでに中東に何十万と軍隊も送ってしまい、攻撃のための言い訳などはあとで穏健派のパウエル長官に作成させ国連を説得せよ、と命令し、フセインとアルカイーダを無理やり関係を持たせてみたりしているけれど、彼の説明はいまひとつ説得力に欠けているものだった。なぜなら理由がどうあれ、もうすでに米政府はイラクを攻撃することを以前から決めているということが、国際社会にもアメリカ市民にもばればれだから。今すでに大部分の兵士を中東に送ってしまったからには、戦争をやらないとコストの損失が発生する。そして今戦争を始めて夏前に終わらせないと、夏は砂漠だから暑すぎて戦えない。だからと言って秋まで待っていれば駐屯費、輸送費等莫大なお金がかかる。これが来年まで続くと次期大統領選挙の年だから、早々に成功を収めておかないと危ない。だからやるなら今すぐだ!急げ!この際ヨーロッパや国連の反対なんか大した問題ではない、強いアメリカはひとりで生きて行けるわけだから。

 これはもちろん友人の独断的分析にしかすぎませんが、要するに計画してお金をかけて実行しかけたものを途中でやめると損失が出て、面子もつぶれる。だからこの際、是が非でも実行に踏み切るしかない、という理論だというわけです。

 ブッシュ政権のあまりにも無謀で一方的な暴走には、多くのアメリカ人も困惑しています。同時テロのような事件が再度起きて、世間が戦争ムードになれば別ですが。もちろん政府の言うことを鵜呑みにして、「やられる前にやってしまえ!」的な発想を持つ保守的な人々もアメリカにはたくさんいます。(そういう人々はだいたい自宅にライフル銃とかを置いている人達ですが。)私は個人的にはばかばかしいと思うのですが、アメリカの武力行使にあくまでも反対しているフランスからの輸入製品、ワインやチーズなどをボイコットしている人達もいると、新聞で読みました。

 私の印象では、アメリカという国は一般に戦争を「正義のための止むを得ない行為」と美化し、愛国心を感傷的なものとはきちがえる傾向があると思います。戦線の兵士はメディアでも「勇敢なヒーロー」とされます。それは我々被爆国日本や他のアジア諸国、ヨーロッパの国々のように、自分の国が何年も戦場となり、街が破壊され、多くの罪もない市民が命を落とし、家族が殺され、戦争がどれほど非人間的で恐しく苦しいものか、という経験が皆無に近いからだと思います。戦争がいかに愚かで、人間に不幸をもたらすものかということを、歴史から存分学んでいても良いはずなのに。

 今回の戦争はフセインが亡命でもしない限り、ここまで来るとヨーロッパが主張するような平和的解決策がみつかるとは考えにくいでしょう。まして今のブッシュ政権の顔触れを見ていると、彼等が今さら戦争を断念するとはまず思えません。私達に今残されているのは、世界中の人々が一致団結してより強い抗議を展開していく他ないのでしょうか。この戦争が短期間で終わり、犠牲者ができるだけ少ないこと、世界との関係を修復できること、そして将来テロの報復を受けないことをただ祈るだけです。


2003年3月9日

 



イラク攻撃問題に関するサイト / WORLDNAVIより



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