最近は日本の若者の敬語もおかしいと言われる時代ですので、これは帰国子女に限らずの問題と言えるかもしれません。一口に敬語と言っても「です」「ます」レベルを超えたいろいろな種類があります。例えば、自分をへり下る謙譲語「〜しています」→「〜しております」、「行きます」→「参ります」、相手を敬う尊敬語「来てください」→「お来しください」、「〜いますか」→「〜いらっしゃいますか」、そして丁寧な表現「ごめんなさい」→「申し訳ありません」などなど、話し相手の地位や自分の立場、親近感、その時の置かれた状況などに応じて、その場の判断で適確に使うことが必要とされます。また場面によっては、直接的な言い方を避けるなどの配慮も敬語として重要となります。これらの敬語は、日本人で大学生以上であれば、正しく使えないとその人の社会性や常識、教育レベルや品性まで問われかねませんので、日本の社会で機能するには重要なポイントと言えます。
英語にも遠回しで丁寧な表現はありますが、日本語に比べると普通のいい方をしたからと言って失礼になる、という状況はあまり見当たらないと言ってよいでしょう。例えば英語では相手が誰であろうが、”You”を使いますが、日本語では「あなた」を使うと失礼になることがしばしばあり、たいていは相手の「名称+さん」で呼ぶことが多いようです。このような違いから、米国で育った日本人子女の日本語には、敬語が少ない英語の影響が表われてしまう可能性があります。また普段家族や友人とは日本語でしゃべっていても、敬語を使用するようなあらたまった状況があまりなく、実際に敬語を聞いて学べる社会環境が少ないのも問題です。結果当然ながら、なかなか敬語を身につけることが困難となるわけです。
今までの典型的な例を出すと、ある大人から電話がかかってきて、「お母さんはいらっしゃいますか。」と聞かれ、「母は今おりません。」と言うべきところを「お母さんは今いません。」と答える子女が一般に多いようです。さらにひどい場合は、そのまま真似をして「お母さんは今いらっしゃいません。」と答えた子供もいました。その他にもアメリカ育ちの日本人ウエイトレスが客に向かって、「ちょっとこっちで待っといてください。」と言ったり、自分が家庭教師をしている子供の親に電話して、「今日ちょっと忙しんでレッスンをキャンセルしてもいいですか。他の日じゃだめですか。」と文字どおりの直接的な言い方を使ってしまった大学生が、無礼に取られたケースもありました。もちろんこれが英語だと、 “Please wait here.”“ May I cancel today’s lesson because I am a little busy?Is it OK to reschedule? ” と、直接的な表現でも無礼までには至りません。しかし日本語であれば、客が相手なら丁寧に「こちらでお待ちください。」、また自分からアポイントメントをキャンセルするような状況で生徒の親と話すのであれば、できるだけへり下って遠回しな言い方、例えば「大変申し訳ないのですが、実は少し仕事が追い付かず、今日のレッスンは難しいかもしれません。もし差し支えなければ、他の日に変えていただくことはできますでしょうか。」というような、込み入った言い回しが面倒くさくても必要となります。またその他の例としては、小学生なのに大人に向かって「あなた」と呼んだり、まわりの子をやたら「おまえ」呼ばわりする子は、英語の影響というよりは、家庭での両親のやりとりをまねしている可能性があるかもしれません。
さて米国にいながら敬語を習得するための対策ですが、まず外国人用の日本語敬語の教科書を購入し、とりあえずどういった敬語をどういった場面で使うのか、正しい知識を得ることが重要です。それらの表現を頭に入れたら、例えば家庭で親を自分の上司や客に想定し、謙譲語と尊敬語で毎日通してみましょう。もし間違った時は、その場で親に直してもらいましょう。家に日本人の大人から電話があった場合は、進んで受け応えをして実践練習してください。また受験での面接も、質問内容を設定して、敬語を使って答えを文章で書き出し、何度も口に出して話をする練習が必要となるでしょう。しかしながら、実際敬語とは、文法書や読み書きから学ぶものでなく、現実的な環境で、肌で経験して覚えていくものです。ですので、日本の大学に進学されたら、是非アルバイトなどを通して客と接したり、様々な場面でまわりのやりとりを観察して、自然に身につけていけるよう努力しましょう。
