アメリカ現地校悩み相談室KOMET

アメリカ現地校への転入では、いろいろな問題に直面します。
ここでは,(KOMET 現地校教育コンサルタント 高橋 純子)がアドバイスします。


「アメリカでのいじめ現状は?」

 千葉県在住で小6男子の母です。実は息子が学校でいじめに遭い、この2、3年不登校が何度か続きました。最近友人からアメリカ現地校のオープンな環境について話を聞き、今新たな気持ちで息子二人と渡米しようかと考えています。息子も今はポジティブに現地校転入を望んでいます。しかし反面、言葉がわからず動作も遅くなるので、まわりからからかわれるのではないか、結局アメリカでも不登校になるのではないかと不安です。アメリカのいじめの状況などについて詳しい情報をお願いします。 (千葉、母)

                     



 

 どうやら日本ではアメリカの学校の明るいイメージばかり先行して、いじめの問題はあまり知られていないのが現状のようです。しかし、いじめは全世界共通の問題で、アメリカでもこの問題の深刻さは近年増す一方となっています。

 2006年ニューヨーク州の地元の新聞では、1月の最後の週にいじめ撲滅運動の一環として、”No Name-Calling Week”(悪口を言わない週)をアメリカの多くの学校が実施したと報告しています。またアメリカの児童育成研究所である「the National Instituteof Child Healthand Human Development (NICHD)」によると、アメリカでは特に小学校高学年、中学校で生徒の16%が1学期内になんらかのいじめを経験した、と回答しています。同時に全米で1日約16万人の子供達がいじめのために学校を休むとされており、その多くが具体的には学校の教室やトイレに行ったり、スクールバスに乗ることなどに恐怖を感じているとも答えています。日本同様、いじめが原因で自殺する(「bully」(いじめ)と「suicide」(自殺)をもじって「bullic ide」とも言われる)ティーンエイジャーのケースもあり、4年前にはコネティカット州で12歳の男子が学校で執拗にいじめを受け続け、2ヵ月以上不登校を続けた後自殺を図ったという事件もありました。

 また極端な例ですが、「合衆国シークレット・サービス・センター」の2000年の報告によると、1974年から起きた生徒による学校内の乱射事件37件のうちのほとんどの加害者少年が、実はいじめの被害者であったとされ、その報復として乱射という犯行に及んだと結論づけられています。記憶に新しいところでは、99年のコロラド州コロンバイン高校の乱射事件が挙げられます。この事件では、普段からいじめを受けていた2人の生徒により、先生を含む13人が射殺されました。犯人達も最後に自殺を図ったこの事件は、あまりにも惨く、米社会をショックと恐怖に陥れたものです。

 アメリカ社会では人種や文化的な要因により、また外国人で英語ができないことが原因でいじめに遭うこともあります。あるケースでは、日本から西海岸の中学に転校してきてまだ英語のできない男子が、学校内のいわゆる「悪ガキ」から毎日からかわれ、あげくの果てに殴られるという事件がありました。彼はショックでその後しばらく不登校が続き、セラピーに通い始め、なんとか再登校にこぎ着けました。しかし不慣れな環境、言語のハンデもあり、男子は体重も減り、心の傷はなかなか癒えなかったようです。

 このようにアメリカの学校では、様々なタイプのいじめが存在するのが実情です。最近では専門家や先生達の意識も高まり、いじめ防止やその早期発見を促すための様々なプログラムが施されています。また州によっては「Anti-Bullying Act」という法律が存在し、各学校区のいじめ対策を強化させ、他の生徒によるいじめの匿名報告、いじめ内容の報告書提出、またいじめられた子にカウンセリングを行うなどの処置を義務づけています。

 さて息子さんのケースですが、日本でいじめられて不登校が続き、またアメリカでも同じような状況になるのでは、とご心配になるのは無理もないでしょう。なぜなら今までの傾向として、日本で問題を抱えている子供は、アメリカでは言語、勉強ともにもっと過酷なストレスに遭遇するので、その問題がかえってひどくなる可能性はかなり大きいと思われます。さらにアメリカでは州法により、子供が不登校になると社会から親の怠慢とみなされるので、学校から「警察を呼ぶ」とまでおどかされた日本人の保護者もいました。ここで大事なことは、日本で根本的な問題が解決しない限り、海外でも問題は変わらないということです。アメリカに来て親戚やまわりの目を逃れられるという安堵感や、環境が変わればきっと全てが変わるのでは、と期待したい気持ちは理解できます。しかし実際は日本で何ら問題のなかった子らでさえ、その多くが現地校でかなりの苦労しているのです。これを乗り越えるには、本人の相当な努力、精神的な強さ、そしてまわりのサポートがものを言います。これらの点を熟慮され、日本でより良い対策をみつけられることをお勧めします。

  




*この回答はあくまでも一般論で、 全てのケースにあてはまるわけではありません。

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