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連 載  「暮らしの中のニセ物考」-8

◆ 托鉢僧と傷痍軍人◆

 洋の東西を問わず人間さまのニセモノも後を絶ちません。敵を欺き、身代わりとするため主君と同じ服装をさせた「影武者」の存在は有名です。最近では、世紀のお尋ね者として世界中が注目しているオサマ・ビンラディンには10人もの影武者がいるそうですから。ところで最近、各地の盛り場やターミナル駅前で見かけるのが「托鉢僧」です。時に若い女性もいますが、顔が隠れるほど深くかぶったすげ傘と、黒装束に白足袋、両手には浄財を入れる黒い鉢を抱え、時々、うなるように「南無阿弥陀仏・・・・」を唱えているのです。
 そんななかに、注意して見ると、すげ傘に所属する寺の表記もない、あまりにも清潔そのものの托鉢姿も目立ちます。いささか滑稽なのは、夏の暑い盛りに冷房の効いた地下鉄駅の構内にまで出没しているのですから、修行とはとても思えません。
 ある名刹の老住職にうかがったところ、本来、托鉢とは僧の大切な修行の一つで、鉢を手に地方の都市を巡回し、施しの米や金銭を受けて回る行為が正常の托鉢だそうです。従って、銀座など、都心の盛り場に終日立ちっぱなしはおよそ修行とはかけ離れた「街頭募金」そのもので、限りなく「ニセ托鉢」とも
断言しています。
 もっと滑稽なことは、神奈川県内のJR藤沢駅前に立っていた托鉢僧です。日頃、托鉢が立つ場所ではないだけに、気になった駅前交番の警察官が職務質問をかねすげ傘を持ち上げたところ、来日したばかりで日本語がまったく話せない中国人だったそうです。 通訳を通じて調べたところ、先輩の中国人から「日銭を稼ぐためしばらくこの格好でたっているように言われた」と話したそうです。


目黒不動尊にて


 もう一つ、偽装で人をだましている点で気になるのが旧海軍の帽子をかぶり、義足や義手をを強調し、白衣に身を包み戦傷を装っての街頭募金です。いまだに、神出鬼没で縁日で賑わう都内の有名神社や八幡さまの境内に姿を現しているのです。
 「祈平和」「全傷協」「龍兵団」などの文字を記した募金箱が、見る人たちの気持ちを重くさせます。
 ところで、戦後すでに半世紀が経っているのに、「傷痍(しょうい)軍人」の白衣募金は存在しているのでしょうか。東京都傷痍軍人会の話では、戦後、恩給が確立し、街頭募金ーはなくなったとのことです。しかも、かっての傷痍軍人も高齢化し、平均年齢も77歳を超えているということ。労災事故の被害者が傷痍軍人を装って募金活動をしているとしか思えません。托鉢僧と傷痍軍人。衣装さえ身にまとえば、いとも簡単に国民から疑われることなく浄財を集められるだけに、明らかに詐欺行為といえます。とかく、同情心が先行しがちですが、彼らをじっくりと観察する必要があるようです。 (明)

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(c) Mei Sasaki, 2001