【Fami Mail】 vol.20 2002.6.17
◆ご意見・ご感想は→E-mail:worldcup@faminet.net
 


サッカーフィバーの影で進む国家統制

ニッポン快進撃に水をさすつもりは、毛頭ない。
頑張れ「イナモト」、頑張れ「トサカ頭のトダ」 なのだ。
しかし、ちょっと思い出してほしい。開幕前の、平和ニッポンがオオカミの襲撃を受 けるかのごときマスコミの騒ぎは、何だったのだろうか。大本営発表におどるジャーナリズムの裏で、戦後初の国家総動員の大訓練が行われている。

  洪水のように日々、吐き出されるワールドカップのニュースを眺めていて、違和感を覚えることがある。開幕後と開幕前の、警察の警備の話だ。

  世界一流の選手が集い、各地でゲームがはじまれば、警備のニュースなんぞ、わきに追いやられるのは当然のことで、いまはロナウドやベッカムらスーパースターの活躍に加え、「イナモト」だ、「モリシマ」だと、予想外の日本チームの快進撃を伝えるニュースであふれている。それがお祭りの常。
 だが、それを割り引いても、開幕前のテレビや新聞による「過剰警備」を正当化するような、フーリガンの恐怖をあおりたてた当局寄りの「過剰報道」は、いったいなんだったのだろうか。今度ばかりは、単なるマスコミの病理だとして、簡単にかたづけるわけにはいかない。

  「大警備、命運かかる」「荒くれ者に負けじと訓練」。開幕前の新聞を見れば全国版から地方版まで、平和な日本に凶暴な暴力集団が大挙押し寄せてきそうな気配だった。

 フーリガン役の私服の警察官が角材で殴りかかってきたり、火炎瓶に見立てたガソリン入りのポリ袋を投げつけて炎上させたりして大暴れ、それを機動隊が高圧水銃や威嚇弾などで制圧し、次々に逮捕する……これは、開催地でもない、ある県警の訓練を紹介した記事だ。暴徒を捕まえるために、投網のような銃を開発したと、警察の成果物を意気込んで伝えるテレビ記者もいた。
 開幕直前の朝日新聞夕刊には、混乱を瞬時に把握できるよう、全10都市に多数の監視カメラが設置された、とある。また、「大量の逮捕者が出ることを想定し」、1次リーグの間、札幌やさいたま地裁などの刑事裁判はほとんど開廷せず、自衛隊は出動態勢を整えるのだという。海上保安庁も負けてはいない、巡視船上でフーリガンの鎮圧訓練をし、定期フェリーには係員が乗り込んで警戒にあたっている。

  これらは、報道のほんの一部にすぎない。これだけ見ても、戦後、最大の警察力の動員であることは容易に理解できる。課題だった部隊の広域移動を伴う治安維持と官民挙げての総動員態勢の構築――これを実践できたことは、警察庁にとって大きな収穫に違いない。

 もう少し例をあげてみよう。札幌には、京都・舞鶴港や新潟港からフェリーで1400人の応援部隊が90台の車両を伴って移動。最大時7400人の警察官を投入する神奈川県警では、手薄になる交番に2000人の警察OBを動員。他県の警備に十数人の警察官を派遣する愛知県内のある警察署では、「地元の治安を守る体制を補うため」にFU(フレキシブル・ユニット)作戦を展開している。
 内容は定かではないが、「FUは英語で『柔軟に運用する部隊』」の意味だ、と記事にはある。大分では、「不安を抱く」試合会場周辺のホテル、飲食店の要望で警察が開いた説明会は39回にも及ぶそうだ。記事は民間の自発性を装った仕立てだが、何のことはない、仮に住民の不安がほんとうだとすれば、それはマスコミと警察が刷り込んだものに違いない。

 大都市から田舎まで、「ニッポン、ニッポン」のコールが沸き立つサッカー・フィーバーに便乗し、警備・公安当局は巧みなマスコミ操作で国家総動員の治安訓練をやっている、といっても過言ではない。

 イングランド戦など3試合が行われたカシマサッカースタジアムを抱える茨城県警は、2週間にわたって3500人の警察官が、会場周辺の宿泊施設にC駐屯Dし、警備にあたった。ここの県警でも、こうした大部隊の長期派遣は前例がない。警察関係者によると、手のつけられない暴れん坊のフーリガンのほとんどが来日しないことは、端っから承知している。そうした札付きは、そもそも本国側が出国させない。
 それ以外の要注意人物として数十人の手配写真はあるが、仮にこのうち何人かが試合を見にきていたとしても、マークは簡単で、「組織だった暴動などおきるわけがない」と、至って冷静である。マスコミを利用してにオオカミがやってくると盛んに喧伝し、総動員体制を敷いている警察当局としては、何にも起きないことがむしろ悩ましい。過剰警備のアリバイづくりが必要な状況だ。

 サッカーに関係することに異議を唱えると変わり者扱いされるような雰囲気だが、少し冷静に考えれば警備がいかに異常か、ということはすぐにわかるはずだ。

 最近、朝日新聞の読者の声欄に「過剰な日本のフーリガン対策に夫も友人たちもあきれて、腹をたてています。こんなにもフーリガンを怖がるなら、W杯を主催すべきではありませんでした」と、20代の女性が警察批判を寄せている。彼女の夫は英国人。友人ら多数の英国人と、イングランド−スウェーデン戦を場外で応援していた際の、過剰警備を指摘した。警備スタッフのつけていたテレビも、英国人サポーターが寄ってきた途端、消されてしまったという。
 警備側にしてみれば、暴動の芽を摘んだつもりなのだろうが、「地球の反対側にある国から大金をはたいて応援のためにやってきた」大多数の普通のサッカーファンの身になってみれば、権威を傘にきた、意地の悪い非友好的な態度としか思えない。会場の周りで開いている飲食店がないことも、「サッカーを国民的行事として、こぞって盛り上げる」国から来た人たちの目には、奇異に映ったようだ。

 少し脇道にそれるが、この投稿を載せた朝日新聞はワールドカップのオフィシャルスポンサーなのだという。公平かつ客観的な報道を社是とするメディアが、商業主義に毒された国際的スポーツイベントとしては最大規模である大会のスポンサー権を大枚はたいて獲得したことの意味は、にわかには理解しがたい。朝日はかつて、軍・政府と一体となり軍国主義を鼓舞、国家総動員を喧伝し、国民を戦争に駆り立てた「戦犯」として、戦後まもなく国民に謝罪し、「国民とともに立たん」と、再生を誓った新聞社だ。本来、ワールドカップに名を借りた警備当局の思惑を冷静に分析すべき責を負っている。

 が、それは無理な相談かもしれない。スポンサーの立場からすれば、警察と協力しながら、いやもっと言えば、警察の力を借りて何事もなく大会を終えることが最優先されるのは道理だ。ジャーナリズムの冷めた視点など、この新聞には期待できない構造なのだ。それでも、声欄という便利な機能を利用し、他人の声を借りてしっかりと警備批判をしてバランスを保とうとする。一途な産経や読売には到底できない芸当だ。商業紙としては、一流である。

 ところで、仮想、架空の敵をしつらえての、この国家総動員ともいえる大警備の目的は何なのか。国会では、政府が拙速批判を浴びながらも有事法制や個人情報保護法案の成立に躍起になっている。 
 相変わらずストレートな物言いの石原慎太郎・都知事が、ワールドカップに向けた都の緊急対策を発表した際に、本音を吐露している。

 「こういうものをきっかけにFEMA(米緊急事態管理庁)とまではいかなくても、首都圏相互の緊急事態時のネットワークを整えたい」

 知らぬ間に、「有事」はもはや日常語になってきた。サッカー熱に浮かれている先に待っているのは、国家による「国民統制」の強化ということに違いあるまい。

2002年6月17日


                  ジャーナリスト 森 民雄



◆ご意見・ご感想お待ちしてます。
↓↓

E-mail:worldcup@faminet.net

▲TOPに戻る▲



(c) Faminet.Co,2002
【Fami Mail】 vol.20 2002.6.17