スピーチセラピスト (カリフォルニア在住13年)
鑓溝(やりみぞ)純子

第5回 スピーチセラピー◆パート2 【Language障害】

 

 

 コトバが遅い子に限らず、最近では、質問に対してそっけなく一言、二言で返事をしたり、「あれ、これ、それ」「する、やる」など、漠然とした表現しかできない子供が増えているように思えます。特にコトバの遅い子は、ボキャブラリーや文法を理解したり使ったりするのが苦手です。

  「上の段の右から3冊目の青い本を持ってきて」なんて言われても、「上の段」「右から」「3冊目」などのコトバの意味がわかっていないと、子供は何をしていいのかわかりません。とりあえず、自分で適当に選んだ本を1冊持ってくるでしょう。

  このように、日頃の生活の中のやりとりだけでは言語が自然に身に付かない子供たちが、スピーチセラピーを受けにやって来ます。
  私は物を探すというのがとても苦手で、既成の教材を探すのも一苦労なので、結局多くを手作りしています。ドリルで教えるのもいいのですが、やはり重宝するのは「本」。言うまでもなく、本はコトバの宝庫。1冊から学ぶことは実に多いのです。レッスン教材も、一気に作れるうえ、数回のセラピーに渡って長持ちしてくれるので、教える私も楽チン楽チン。今回は、教材の写真を併せて言語セラピーについてご紹介します。

 

 幼稚園〜1年生くらい
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“Caps for Sale”という絵本。頭のてっぺんに商品の帽子を乗せて歩く行商のとある1日の出来事のお話。
帽子に絵柄を描きながら、色や「縦シマ」「ギザギザ」「チェック」などの柄のボキャブラリー(語彙)に慣れる。次に、「赤いチェックの帽子をください」などと習ったボキャブラリーを使う練習。そして、それぞれの帽子を、誰の頭の上に乗せるかを “he,she,they”などの代名詞を使って指定する練習。最後に「多い・少ない」「高い・低い」「〜と〜は同じだけ帽子を持っている」などといった比較の文章を作ってみる。

 

  2年生〜3年生くらい

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 “Dr. DeSoto”というネズミの歯医者さんのシリーズ本。慎重なDr. DeSotoは、「ネズミに危険な動物(ネコやキツネ)は診療お断り」という看板を出しているのですが、ある日、キツネに泣きつかれます・・・。

 お話は、ストーリーの流れ、前後関係がわからなくては、おもしろくありません。あらすじ通りに、絵と文章を並べ替えられるか、やってみました。

 読書の楽しみであり、難しいところは、話の「奥を読む」こと。話の先を読む、登場人物の心境を読む、言葉の裏や言葉どうしの関係(反対語など)を読む、話の教訓を読み取るなど、直接文章には書いていないことを察する力が必要になります。

 この「奥を読む」力のうち、特に「賢い、慎重、恩知らず」など人格をあらわす言葉と、「がっかり、申し訳ない、裏切られた気分」など気持ちをあらわす言葉は、「リンゴ」や「イス」と違って形として見えない言葉なので、子供たちにとって、理解したり、使ったりすることがとても難しいようです。考える力を養うために、できるだけこのような「奥の質問」を子供らに投げかけます。

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  “感情表現レッスン”をしてみました。「あなたがこんな状況だったら、どんな気分になる?」というクイズっぽい質問に、生徒らも楽しそうに答えてくれました。

 「お父さんがディズニーランドに連れて行ってくれると約束していたのに、急の仕事で行けなくなりました。さぁ、君はどう思う?」の問いに、「がっかり」と答える子もいれば、「イカる!」と言う強気クンや「裏切られた〜」という大袈裟さんもいました。

  子供たちの性格の差を垣間見ることができ、私も充分に楽しめたレッスンでした。

 

 

 これは小さめの子供用に
 

 

 

「〜したら、〜しちゃうよ」と原因→結果をわかってほしいなと思って作った絵本。これがわかると、「だから、〜しちゃダメなんだよ」が理解できるようになります。

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  ◆”One rule fits all”ではないわけ◆

  前回と今回で、スピーチセラピーのレッスンがどのようなものかというのが、なんとなくわかっていただけたでしょうか。さて、ここカリフォルニアには、様々な背景をもつ人々が住んでいます。もちろん、私たちセラピストが関わる子供も多種多様です。そのため、彼らと関わる際には、”One rule fits all”(「1つのルール・方法が全員にあてはまる」と言う意味)というわけには行きません。これが、この仕事の興味深いところでもあり、難しいところでもあります。次回は、この多様性をテーマにお話をしようと思います。

2006/6/15

つづく
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