【Fami Mail】 特別寄稿連載 帰国子女子育て日記



帰国子女となった子供と共に歩んだ15年

目次                                          海外赴任アドバイザー
        
 黒川 美佐子 
(英国4年半・中国1年半在住)

著者HP>海外帰国子女受験体験記
第1回:本物の異文化体験を持つ帰国子女

はじめに英国ーDEVONの海辺で戯れる子供達

  初めて英国のヒースロー空港に降り立った時のうれしさ、新鮮さと共に、身震いするほど身の引き締まるような気持ち・自らを奮い立たせる決意を、今でも時々懐かしく思い出します。
その時、2人の息子は、9歳と5歳。無邪気な日本の子でした。・・・
と、「海外帰国子女受験体験記」というHPで
「ご挨拶」したのは、2003年の11月。
あれからまた、1年半が経とうとしています。

 これは、帰国して2年経ってもなかなか日本人らしくならない次男の首都圏での中学受験の様子を、私の心情を吐露しながら帰国子女の中学受験体験記として纏めたものです。

 海外子女教育振興財団の月刊誌、海外子女教育の「家族/クロスカルチャー」の特集で私達家族の体当たりの英国生活が取り上げられたのは、2000年の7月。3ヵ月間の連載でした。

 英語が話せない外国人を受け入れるのは初めてだったというプレパラートリースクールでの子供達の様子や、その後、進学したパブリックスクールでの長男の学校生活の様子を、記事にしていただきました。

 この記事には、学校名・団体名なども具体的に掲載していただきました。
 「英国には、探せばこんな学校もあるよ。こんな出会いがあったよ。
 たった4年半の滞在でも、こんなに体験できたよ。」
と、住居探し、学校探しをされている方々への情報としても使える記事にして欲しい、という願いからでした。

 英国で、ロンドン郊外の自然豊かな恵まれた環境の中で、音楽やスポーツを通じて多くの英国人と触れ合うことができた子供達も、今では高3と中3です。

 ここでは、帰国子女となった子供と共に過ごした15年間を、単に時を追って書くのではなく、親として子供に良かれと採った行動(選択)が、子供の成長にどう影響したか?も振り返りながら、時にはフォーラム・セミナーなどで感じたことも、書いていきたいと思います。

 また、駐在体験や受験の記録を公開する時の注意点、教育関係の情報収集の方法とそのコツ、掲示板に書き込む際に気をつけることなど、私のインターネット経験も、織り込んでいく予定です。


「帰国子女の知られざる悲哀」は避けられないのか?

日本1−しだれ桜
 HPを開設していると、いろんな世界の方から、質問をいただくことがあります。先日いただいたメールは、番組の製作・取材のため、1年の3分の1を海外で過ごしていた方からでした。

 「帰国子女の子供達は、帰国して日本の学校に戻った時に、他の子と共通の話題を持てるのか?日本の子供達とは、違うテレビ、違うCMを見て育った帰国子女は、どうやって学校や友達に馴染むのか?」
というのが、テレビ局にお勤めのこの方の素朴な疑問でした。

 また、先日、ある雑誌に「帰国子女知られざる悲哀」という記事が掲載されているのを見かけました。海外では輝いていたはずの子供達なのに、日本の学校ではその力を発揮できず、また、周囲に期待されているほど英語もできないという、その落差をコンプレックスやストレスに感じ、身体の不調を訴える学校不適応の子供達が増えている、というものでした。

 親の駐在のため世界各地で暮らしている子供達は、日々精一杯、海外の生活や学校に適応しようと暮らしています。しかし、ほとんどのご家庭の場合は、駐在は数年と限られていますから、現地の生活に慣れる一方で、本帰国にも備えておくことになると思います。

 ところで、駐在中の皆様は、お子様が苦労するのは海外にいる間だけ、だと、お思いになられますか?

 残念なことですが、帰国すると今度は、日本という異文化に馴染む苦労が始まります。
「え〜、大変なのは今だけではないのか?帰国してからも、また大変なのか?」
と思うと、大きなため息が出てしまうお母様(お父様)もいらっしゃるかもしれないですね。

 でも、親がしなければならない事は、立ち止まって考える事ではなく、前に進むことだと思います。もし、駐在中、いえ駐在中に限らず帰国してからも、親が立ち止まってしまったら、子供の心は行くあてもなく彷徨うことになってしまうでしょう。

 では、海外では、どのように子育てをすれば良いのでしょうか?

 その答えのヒントを、文部科学省主催のフォーラムを聴講した時に得ることができました。国内に育った子にはない、帰国子女の素晴らしさは何か?の手ごたえをしっかりと感じました。


「英語が使える日本人」の育成のためのフォーラム2005

日本2−桜
 お台場のビッグサイトで行われた文部科学省主催の
「英語が使える日本人」の育成のためのフォーラム2005を聴講しました。

 このフォーラムの中で、文部科学省のスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)に3年間指定されている高校がその成果を模擬授業として発表しました。このセルハイ(SELHi)は、文部科学省が、英語を使える日本人の育成を目的としてスタートしました。指定された学校は、学習指導要領等の規定によらず、自由な発想で様々な取り組みができます。

 国際会議場のステージで行われた英語の模擬授業の素晴らしさに驚きました。某県立高校普通科英語コース2年生の生徒達の英語力と、その授業の完成度に圧倒されました。

 その高校の生徒達は、発表と意見交換を中心に英語のみの授業を作り上げていきました。二人一組となり、国際問題、環境問題などについて調べて考えたことを、英語でプレゼンテーションします。生徒達は、50年後の自分達はどうなっているか?も、予測します。別の生徒達は、自分の意見をこれまた英語で述べていきます。

 先生と生徒が一体になり、ほとんどの生徒はまるで帰国子女のような流暢な英語を操っています。もちろん、決して全員が流れるような英語を話すというわけではないけれど、確かにクラス全員が単なる丸暗記ではなく、英語で考え、英語で意見交換して、互いにコミュニケーションをしている様子は、見ていた約千人の参加者の心を打ちました。

 日本に生まれ育った普通の子でも、熱意と才能あふれる先生の指導があれば、たった2年足らずで、こんなに英語ができるようになるの・・?
 実際、目の前で行われていても、この模擬授業は、私には信じられない光景でした。

 模擬授業が終わったあと、私は、生徒に駆け寄り尋ねてみました。

 「もしかして、帰国子女や留学経験者がクラスにいるのでは?」

 「いえ、誰もいません。
 私達みんな、この高校に入学した頃には、英語は全然できなかったんです。
 でも今は、ネイティブの先生が廊下にいたら、
 とにかく話さなきゃ損って思うくらい積極的になりました。
 ペアワークやグループワークが多いので、
 お互いに迷惑がかからないようにとみんなで頑張ります。
 夏休みには、英語の本を一日50ページは、読むんです。
 英語のみの合宿生活も年に4回あるのですが、それは、大変ですが、
 でも本当に楽しくて・・・」

 このようにして生徒達と先生達は、自分達のモチベーションを今日の晴れ舞台の日までずっと上げ続けてきました。本当に英語が大好きで大好きでしょうがない、東京に来る事ができて嬉しい、こんなに立派な機会を与えられて嬉しい・・・模擬授業が終わった後、このクラスの生徒達は、感極まって泣いていました。言葉の端々から、表情から、その喜びが溢れていました。


先生の生き方を学ぶ生徒達


 午後からは、この模擬授業を行った先生がパネラーとなる分科会に出席してみました。こんな素晴らしい授業を行う先生ってどんな人?と、私は、先生の肉声を聞いてみたくなったからです。先生はこうおっしゃっていました。

 「私の生き方を生徒は、学んでいます。
 私が一生懸命だと生徒は、ついてきます。
 この学校の英語指導の要は、チームワークです。
 先生同士のチームワークです。
 どの先生の質も揃っていて、どの先生も頑張って勉強している。
 だから、その先生が自信をもって進めてくれる勉強方法を学んでみよう、
 と生徒も、私達先生を信じて付いて来てくれます。」

 驚いたことに、この学校の先生も生徒も、誰ひとりとして、1ヵ月以上海外に暮らしたことがないそうです。それでも、進学した高校で良い先生と出会い、その先生と生徒が本気で取り組めば、これだけの英語力を日本でも身に付けることができるのです。

 私は、この学校の先生と生徒が作り上げた素晴らしい成果に度肝を抜かれましたが、と同時に、国内生でもこれだけ英語ができるとなると、この子達と帰国子女の違いが、国内に住む多くの人にはわかってもらえないのではないか?と、心配になりました。


帰国子女の良さとは?

子供達の心の癒しーフラフィー
 では、帰国子女は、どうすればその個性を生かせるのでしょう?周りに良さを認めてもらうには、海外でどんな子育てをすれば良いでしょう?日本で英語を覚えたこの生徒達と帰国子女の違いは、どこにあるのでしょう?

 それは、
本物の異文化体験を持つ、ということではないでしょうか。外国に暮らして、子供時代の貴重な時間を費やして、外国人の友達と楽しく遊んだり、机を並べて勉強した経験がある、というような帰国子女なら当たり前の経験、も含めてです。

 帰国子女達は、外国の気候が日本と違う、ということを知っています。言葉が違う国に暮らすとどんなことが起こるか、を知っています。おじいちゃん、おばあちゃんにもなかなか会えないのを知っています。長時間、飛行機に乗って外国に行くことも知っています。外国に行けば、さまざまな人種がいるのを知っています。

 望郷の念も小さいながらにも感じていることでしょう。たとえ外国に永住するつもりの人でも、実は自分の祖国を思っていることを知っています。どんなに些細な事でも、外国で見聞きしたこと、体験したことは、その子の血となり肉となっているはずです。帰国子女達は、本物の外国を経験しているのです。

 また、帰国してからは、
日本を異文化と感じた経験を持つ、ということです。

 帰国してしばらくは、大人でも、不思議な感覚に襲われます。ここ日本は、自分が生まれ育った国であるのに、都市のあり方、学校のあり方、人々の暮らし方、考え方、全てが奇異に感じられます。しかし、外国で異文化体験をしてきた帰国子女達は、子供でありながらも、日本の良いところも悪いところも認めて日本を受け入れる感覚を、すでに持っているはずです。もちろん、日本の学校にも友達にも適応する能力を充分備えているし、頑張れるはずです。


海外体験は神様が与えてくれた大きなチャンス


 ほとんどの場合、どの家庭でも海外駐在経験はたったの数年です。それをチャンスと捉えるか、日本の同学年の子供達に遅れを取らないようにと焦りながら、外国で日本の勉学にいそしむか、それは各家庭の教育方針によりますが、私が外国での子育てを通して願っていたことは、このチャンスを生かして可能な限り「異文化を体験してほしい」でした。海外において多くの体験をしたことが、成長の過程で出会う困難に立ち向かうときの心の支えになり、また、自分に自信を持つことに繋がるだろう、と思ったからです。

 子供と共に歩いてきたこの15年間でしたが、その成長を通して、親として本当に楽しく有意義な駐在生活を送れた、と感謝しています。そして、子供達もこんなことを言ってくれています。


 「本当に、僕は、帰国子女で良かった。」と・・・




                                       2005年 4月15日

                                               つづく



著者HP>海外帰国子女受験体験記


帰国子女となった子供と共に歩んだ15年

 帰国子女子育て日記   目次

  第1回    本物の異文化体験を持つ帰国子                   2005年4月15日

  第2回     海外赴任ーありのまま自然に暮らそう                  2005年5月15日 

  第3回     英国での現地校探しからパブリックスクール受験へ  
        2005年6月15日

 
第4回
    英国生活ー子育てを通して自分の世界を広げよう            2005年7月15日 

 
第5回    ガラスのように脆い海外子女の日本語                   2005年8月17日


 第6回    帰国子女中学入試ー学校選択のための情報の集め方         2005年9月15日

 
第7回   受験等の有効な情報を得るためにーブログの体験記・掲示板の利用法 
                                                  2005年10月15日
     






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