【Fami Mail】 特別寄稿連載  ◇◆目次◆◇
 

新日本橋石井クリニック 院長 医学博士 石井 光
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目次(連載)
   はじめに    7. クラブ180会員は内視鏡の名手
 1. 大腸ガンの増加  8. 内視鏡とレントゲンとどっちが有利か
 2. 無症状だけに胃ガンよりたちが悪い  9. 内視鏡で早期ガンの日帰り治療ができる
 3. 便潜血反応に頼るな 10. ポリープを取ると大腸ガンの予防ができる
 4. 助かる大腸進行ガンと助からない進行ガン 11. 無痛内視鏡は医療費を抑制する
 5. 大腸進行ガンはこれだけ医療費がかかる おまけ.無痛内視鏡体験記
6. 無痛内視鏡は本当に痛くも苦しくもない
-完-

 2. 無症状だけに胃ガンよりたちが悪い
 大腸ガンはまったく無症状のままに進行します。胃の場合は、胃炎や胃潰瘍で痛みが出るように、早期ガンでもなんとなく胃が重いとか食欲が低下するという症状が出て発見されることが多いのですが、大腸ガンの場合は、早期ガンはもちろんのこと進行ガンになっても無症状なので厄介です。

 大腸ガンの一般的症状としては「血便」「便が細くなる」「腹痛」などがあります。ところが出血をともなわない進行ガンも多いので、血便がないからといって大腸ガンの可能性がないということにはなりません。私の患者で、大腸進行ガンが発見されたけれども便は普通だったという人も少なからずいます。

 大腸ガンで腹痛をともなう場合のメカニズムは次のようなものです。腸管全周にガンが広がるため腸管の内腔が狭くなり、その結果、腸閉塞の症状をきたし腹痛を起こすものと思われます。だから腹痛で大腸ガンが発見されたときには、ガンはすでに他臓器に転移した状態だということです。
 ガンの切除は転移があっても可能ですが、手術後は転移のための治療を始めなければなりません。転移は、主にリンパ節、肝臓、肺です。肝臓に転移している場合、治療法としては「肝切除」と「抗ガン剤投与」の2通りあり、肺転移の場合は通常、 「抗ガン剤投与」です。
 しかしいずれにしても転移性大腸ガンは、どんなに治療を施しても6〜7割の方が2〜3年で亡くなっているのが現実です。その間の医療費は平均すると2000万円ほどにもなりますが、それはまったくの死に金になってしまうのです。

治療費の比較 <早期と転移性大腸がん>
早期がん(粘膜内) 手術代 10万円 入院費 ゼロ
転移性大腸がん 手術代 100万円 入通院費 2000万円

 

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 3. 便潜血反応に頼るな

  便潜血反応とは、便中のヘモグロビンを測定することで大腸ガンのスクリーニングをおこなう検診方法です。
  従来の方法では、肉類に含まれるヘモグロビンにも反応してしまうほど感度が悪かったのですが、最近は人間のヘモグロビンにだけ反応する検査法も開発され、検出感度も極めて向上しています。

  しかしいくら検査技術が向上しても、解決できないことがあります。
  出血しない大腸ガンの便や出血していないときの便をいくら調べても、正確な診断は下せないのです。
  大腸ガンでも出血しない場合があったり、出血をともなう大腸ガンであってもいつも出血しているとは限らないのですから。
  私が診た患者のなかに、過去5、6回の便潜血反応が陰性だったけれど初めて陽性になったというので来院した人が2人いました。
  2人とも手術はおこないましたが、2〜3年後に亡くなりました。

 統計でも進行ガンの10%は、便潜血反応の検診で見逃されているといいます。便潜血反応の結果を信用し過ぎるのも考えものです。
  いちばん確実な大腸ガンの検診法は、直接大腸を観察する内視鏡検査だというのが専門家の間では今や常識です。
  しかしだからといって、私は便潜血反応を否定するものではありません。
  あくまでも両者をうまく組み合わせることが大事だと考えます。

 

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 4. 助かる大腸進行ガンと助からない進行ガン
  大腸ガンは進行が比較的遅いので、進行ガンの場合でも助かることが多いのです。
 どういう場合に助かるはかという前に、早期ガンと進行ガンの違いを説明しておきましょう。


 早期ガンは、別名「粘膜内ガン」とも言います。粘膜内にガンがとどまるものを早期ガン、粘膜下にガンが及んでいるものを進行ガンとしているのです。欧米では粘膜内ガンをガンとは言いませんが、我が国の病理専門医はそれを早期ガンと定義しています。


 腸管は「粘膜」「粘膜下層」「筋層」「しょう膜」に分かれます。ガンが粘膜内にとどまっていれば、内視鏡切除が可能になり治療はきわめて簡単です。私のクリニックでは粘膜内ガンなら、胃ガンでも大腸ガンでも日帰り手術で治療しています。


 しかし粘膜下層にガンが進んだ場合は開腹手術になります。ただし最近では腹腔鏡という内視鏡による手術(お腹の隅に数カ所穴を開け、内視鏡とカンシを挿入して切除する)が進歩しているので、お腹を大きく開腹する必要はなくなりました。私のクリニックで発見した大腸進行ガンのうち腹腔鏡で手術した症例は86%です。


 進行ガンでもこのような粘膜下層の場合は根治可能です。手術でガンを取り除くと、助かる確率も高くなります。発見が早い進行ガンは、早期ガンと同じとみなしてもいいように思われます。ガンが筋層に達していても転移していなければ助かります。肝臓や肺に転移していなければ助かる確率は高いのです。


 肝心なことは、転移する前にいかに早く大腸ガンを発見するかということです。無症状のうちに発見するのが理想的といえます。だからこそ、大腸内視鏡検診の有用性が高いのです。

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 5. 大腸進行ガンはこれだけ医療費がかかる
 大腸ガンが進行ガンになると、莫大な医療費がかかります。まず手術代に100〜200万円、入院費に100万円。手術後には転移を抑えるための化学療法が開始されます。

 肝臓に転移している場合、肝切除をすることもあります。その後も化学療法を何回もおこなうので、外来での通院回数も多くなります。このような治療を続けても、2〜3年で6〜7割の患者さんが亡くなってしまうのです。

 結局、合計2000〜3000万円の医療費をかけながら、それは死に金となってしまいます。ときには患者のご家族が路頭に迷うような状況に追い込まれることもあるでしょう。失うものはお金ばかりではありません。

 よくガンの治癒に効果があるという謳い文句でいろいろな健康食品が喧伝されていますが、いずれもたいへん高価にも関わらずその効き目は大いに疑問です。

 検査嫌いの患者にたずねると、たいてい「検査が辛くて嫌だから」という答えが返ってきます。私のクリニックが無痛内視鏡をおこなっていることはどなたもご存知のはずなのですが、それでも検査を嫌がる方がいらっしゃるのです。なかには私の説得でついに内視鏡検査を受け、その結果一命を取り留め、たいへん感謝された例があります。

 その方は当時56歳(男性)で、別の病気で通院していました。あるとき体がだるいと訴えるので、カルテをひっくり返して見ると、胃の内視鏡は定期的におこなっているのに大腸はまったくしたことがないのに気付き、大腸の検査を勧めました。半年たってようやく検査を受ける気になり大腸の内視鏡検査をおこないました。
 すると直腸のほぼ全周性にガンが発見されたのです。ただちにご本人に告知して手術を勧めました。幸い瀬戸際のところで間に合い、人工肛門にもならず手術後3年半経過した今も健康でいらっしゃいます。この例などは、私の勧めに従って幸いにも手遅れにならずに済んだ好例と言えるでしょう。

 今、医療保険財政は破綻寸前と言われていますが、すべてのガンがこのように手遅れにならないうちに発見されて治療が施されていれば、医療費の増大は防げるはずなのです。

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