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運動飲料は下痢による脱水症の予防には使用できない 


私の行っている「電話無料相談」の中に、下痢が起きた場合"ポカリスエット"(運動飲料の商品名の一種)を飲むのが良いと言うことを聞きましたが、先生の本にはORSが良いと書かれてあります。運動飲料とORSとは同じものですか?"と言う質問を度々受けております。この問題は重要なので、こうした運動飲料の製造会社が果たして、下痢に使用すると広告しているか否かについて注意していましたが、私の知る限りでは、下痢の場合に飲むと良いと宣伝しているメーカーは見あたりません。"下痢の際に飲め"と言うアドバイスは、一部の医師による誤った、または、思いつきによるアドバイスの疑いがあるように思います。

● 下痢に対する「経口輸液療法(ORS)」の確立の背景
1960年代の末までは、コレラを含む急性下痢症の治療は、専ら生理的食塩水に2,3の塩類を加えた液を静脈注射する方法がとられていました。1970年代の初めから、米国のジョンスホプキンス大学、ハーバード大学などの医師団が中心となって、インド、パキスタン、バングラデッシュなどで精力的な研究の結果、1970年末には、今日、途上国で使用されている「ORSによる経口輸液療法」が確立しました。この研究期間にコレラ以外の下痢症についても多くの症例からORSの成分が検討されて、現在の成分に到達しています。 ORSのミネラルの種類と含量は、運動飲料に含まれるミネラル類に比べてはるかに多量であるばかりでなく、下痢で起きる「酸性症(血液が酸性になる)」を防ぐ成分を含んでいます。下痢によって起きる脱水は血液を酸性にし、血液中のカリウムの欠乏を起こし、それに続く心機能の障害、時には心停止を起こし得ることを米国医師団の研究により指摘されております。
現在「ORS方式」はユニセフが途上国に対する三大プロジェクトの一つとして実施しております。 他の二つは、予防接種と井戸掘りによる飲料水の確保です。
ORSは、できる限り赴任前に薬局で、1リットル分の量づつをプラスティックの袋に入れてもらい準備したいものです。(処方箋は必要ありません)


● 赴任前にORSの入手を勧める理由
@ 途上国のブドー糖の中には、スターチを混入しているものがあると言う情報があります
A ORSを作る食塩その他を"小匙"で計ると不正確になり、必要量が計れない場合が多いので、期待する経口輸液を作れないと言う研究結果が、1970年代に証明されております。

薬剤による飲料水の消毒法
飲み水は平地では煮沸5分、高度が1,000m 増す毎に1分を追加する(高度3,000mの所では、8分間の煮沸)のが常識です。暴風雨、地震など天災のため、飲み水を自分自身で消毒しなければならない情況では、「飲料水消毒剤」として、「局方 稀ヨードチンキ」または、洗濯用漂白液を水に少量づつスポイドで加えてゆき、水にヨードまたは漂白液の匂いが残ってきたら、少なくとも10分間待ち、もう一度匂いを確かめ、匂いが残っていれば消毒は完了したと考えて良いでしょう。水に残ったヨードや漂白液の匂いは、ビタミンC錠の一片を加えることで消すことができると思います。以上2種類の消毒剤のうち、局方稀ヨードチンキの方が漂白液より、水中の病原体を殺す力が勝っているといわれています。ただし、先に述べたORSを作る際に大切なことは、飲み水の消毒を済ませてから、「下痢用経口輸液」を作ることです。経口輸液を作ってから消毒剤を加えると消毒剤の殺菌効果が低下する恐れがあります。


● なお、妊婦がヨードチンキで消毒した水を3週間以上飲み続けると、"甲状腺が大きくなった新生児が生まれる"という報告がありまので注意してください

 

 


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