表C 昆虫に媒介される主な感染症

表Cに示した感染症を媒介する昆虫には、次のような種類があります。


カの類により媒介される感染症

病名
分布
媒介昆虫
主な症状
マラリア

アフリカ 西部太平洋を含むアジア、中部および南アメリカ,アジア、太平洋

ハマダラカ

さむけ、頭痛、発熱、発汗、意識もうろう

悪性の熱帯熱マラリアでは直ぐに治療しないと7日以内に死亡する恐れがあり、その場合の死亡率は年齢にもよるが30%以上と云われている
フィラリア症 アフリカ、西インド諸島、中部および南アメリカ、アジア、大洋州

ハマダラカ、イエカ、ヌマカ、ヤブカ

発熱、リンパ腺が腫れる、リンパ管が腫れる、象皮症、睾丸が腫れる 繰り返しカに刺されないと発病しない。現地の住民に多い
デング熱 アジア、西インド諸島,中部および南アメリカ、大洋州 ヤブカ 発熱、頭痛、関節と筋肉の痛み、発疹 死亡率は非常に低く、都会にも患者が多い
黄熱 熱帯アフリカ、熱帯南アメリカ ヤブカ 発熱、頭痛、嘔吐、黄疸、吐血 先進国から来た人ヒトがかかると50%〜85%くらい死亡すると思われる。有効な予防接種あり
リフトバレー熱 アフリカ イエカ、ヤブカ、(ハマダラカ?ヌマカ?) 発熱、頭痛、関節と筋肉痛、嘔吐、下痢、肝炎様症状、脳炎症状、目がよく見えない 死亡率は1%くらいと思われる。飼育している牛や羊に流産や、死亡が多くなった時は人に流行をおこす前触れかも知れない
日本脳炎 アジア、大洋州、ニュージーランドを除く イエカ(ヤブカ) 発熱、頭痛、吐き気、嘔吐、意識混濁、けいれん 7〜28%の死亡率が報告されている
西ナイル熱 熱帯アフリカに常在、北アフリカ、中東にも風土病として分布している疑い、1999年米国東海岸に侵入、米国西海岸に流行が拡大、2004年現在、米国の殆ど全州で流行を繰り返し、風土病とも考えられる イエカ 日本脳炎に似た症状 -
他のウイルス性脳炎7種 北アメリカ、中部および南アメリカ、アフリカ イエカ、ヤブカ 日本脳炎に似た症状 患者はあまりでない

□UP□

ハエの類により媒介される感染症

病名
分布
媒介昆虫
主な症状
リーシマニア症 アフリカ、中部および南アメリカ、アジア、ヨーロッパの一部 サシチョウバエ カラアザール:長く続く熱、貧血  皮膚リーシマニア症:皮膚のできもの潰瘍が治らず進行することもある カラアザール:衰弱または他の感染でしぼう  皮膚リーシュマニア症:温帯地方に移ると自然に治癒することがある
バルトネラ症(オロヤ熱) 南アメリカ(アンデス山脈西側600〜3,000mの渓谷 サシチョウバエ 倦怠感、発熱、激しい頭痛、手足の骨の痛み、貧血 治療しないと死亡率10%〜40%
サシチョウバエ熱(パパタシ熱) 中部および南アメリカ、アジア、ヨーロッパ(地中海沿岸)アフリカ サシチョウバエ 頭痛、発熱、吐き気、四肢や背中の痛み 生命に危険はない
アフリカトリパノソーマ症(アフリカ睡眠病) アフリカ ツエツエバエ 刺された箇所が硬くふくらみ、発熱、リンパ腺が腫れ、胸や背に大きな輪環状の発疹がでる 生命に危険あり
アメリカトリパノソーマ症(シャガス病) アメリカ サシガメ 刺された箇所が硬くふくらみ、発熱 後に脳脊髄膜炎を起こすことがある
オンコセルカ症 アフリカ、中部および南アメリカ ブユ 骨に近い皮膚の下に硬い固まり、皮膚がかゆい、尻、顔,そけい部のふくらみ 失明することがある
ロア糸状虫症 西部および中央アフリカ アブ 皮膚の下のふくらみ、痛みがなく3日位でなくなる(体のどの部分でも見られる)皮膚の色は変わらない 生命に危険はない
野兎病 アメリカ、アジア、ヨーロッパ、北半球のみに分布 メクラアブ(スカンジナビアではヤブカが媒介する) 皮膚の潰瘍、リンパ腺が大きくなる、喉の痛み、腹痛、下痢、発熱 5〜10%の死亡率

□UP□

シラミにより媒介される感染症

病名

分布
媒介昆虫
主な症状
発疹チフス アフリカ、アメリカ、アジア コロモシラミ 頭痛、寒気、発熱、全身の痛み、胴体上部の発疹 治療しない場合の死亡率は10〜40%
回帰熱 アフリカ(エチオピア、スーダンに特に多い)南アメリカ コロモシラミ 頭痛2〜4日間隔でおきる40℃以上の発熱、意識もうろう、背中、胸、腹、足の痛み、咳、吐き気、黄疸 治療しない場合の死亡率は2〜9%

□UP□

ノミにより媒介される感染症

病名
分布
媒介昆虫
主な症状
ペスト アフリカ、アメリカ、アジア ネズミのノミ   後に示す表Dを参照して下さい
ネズミ発疹熱 世界中に広く分布 ネズミのノミ   後に示す表Dを参照して下さい

□UP□

ダニにより媒介される感染症
病名
分布
媒介昆虫
主な症状
野兎病 アメリカ、アジア、ヨーロッパ(北半球のみ) マダニ 上述の野兎病を参照 上述の野兎病を参照
リケッチア感染症 世界に広く分布 マダニ 各種各様だが、共通と言えるものは、発熱、頭痛、筋肉痛など、他の感染症と似ているので、特別な診断検査が必要  
ダニ発疹熱(7種類) 北米、中米、南米ベイ、アジア、アフリカ マダニ 発熱、頭痛、光がまぶしい、発疹(時に出血性)のものもある 治療をしない場合の死亡率は病気の種類により0〜90%
つつがむし病 アジア(インドから東) つつがむし(小型ノダに) 高熱、リンパ腺が腫ハれる、白目が赤くなる、咳、皮膚に大きな斑点、便秘 治療しない場合の死亡率は1〜60%
ダニ脳炎 北アメリカ、アジア、南アメリカ、ヨーロッパ マダニ 日本脳炎を参照 一般に症状は軽い
クリミアンコンゴ出血熱 アフリカ、アジア、ヨーロッパ マダニ 発熱、頭痛、足腰の痛み、嘔吐、腹痛、下痢、顔面や胸部が赤くなる、 歯ぐき、その他からの出血 死亡率は15〜70%患者から他の人へも感染する
回帰熱 オーストラリアを除く世界中チュウに広く分布 ヒメダニ 上述の回帰熱を参照 上述の回帰熱を参照
ロッキー山紅斑熱 北米、中米、南米 マダニ 発熱、筋肉痛、頭痛、結膜の充血、手足の発疹から全身の発疹、皮膚の小出血斑 治療を受けない場合の死亡率は15〜20%
ライム病 北米、ヨーロッパ マダニ 刺された皮膚の部分を中心に紅斑が現れ次第に大きくなる、ついで髄膜炎症状、心臓障害、関節、特に大きい関節が腫れる、紅斑が現れず、脳神経の障害に進むものもある 死亡率は不明

□UP□

サシガメにより媒介される感染症

病名
分布
媒介昆虫
主な症状
アメリカントリパノソーマ症(シャガス病) 中部および南アメリカ サシガメ 発熱、瞼が腫れる、白目が片側だけ赤くなる、顔にむくみがでる、胸部や腹部の発疹 小児では生命に危険あり 約10%の死亡率

 

: 同じ種類の感染症でも種々の症状を示すことがあり他の診断法を用いなければならないのでここに示した症状のみで病名を確定することは殆ど不可能です
赤字のものはHIIT2005−2006で海外旅行者が注意を要するとしている感染症です

表C−I「予防接種」と「治療薬」

昆虫名
病名(病原体の種類)
予防接種
治療薬
ヤブカ デング熱(ウイルス)
ヤブカ 黄熱ネツ(ウイルス)
イエカ 日本脳炎(ウイルス)
イエカ 西ナイル熱(ウイルス)
マダニ ダニ脳炎(ウイルス)
マダニ ライム病(細菌)
マダニ リケツチア症(細菌)
ネズミのノミ ペスト(細菌)
ハマダラカ マラリア(寄生虫)
カの各種 フィラリア(寄生虫)
サシチョウバエ リーシマニア症(寄生虫)
ツェツェバエ アフリカ・トリパノソーマ症(寄生虫)
サシガメ アメリカ・トリパノソーマ症(寄生虫)
ヒメダニ 回帰熱ネツ(寄生虫)

表Cに示した昆虫媒介感染症のうち、「HIIT2005−2006」が海外旅行者に注意を促している感染症に加え、米国本土で風土病的流行を起こしている“西ナイル熱”および、途上国で感染者は余り無いようだが、時々熱帯熱マラリアと間違われることのある回帰熱を加え、これらの感染症への対応策として「予防接種」と「治療薬」の可能性を示したものが表C―Iです。これら13種類の昆虫媒介感染症のうち、予防接種で対応できるものは、

  • 黄熱
  • 日本脳炎
  • ダニ脳炎
  • ライム病
  • ペスト

の5種類で、デング熱のワクチンは既に開発されているようですが、まだ一般に普及されていません。

また治療薬で対応できるものは、ライム病、リケッチア症、ペスト、マラリア、フィラリア症、アフリカ・トリパノソーマ症,アメリカ・トリパノソーマ症、回帰熱などでこれらのうちマラリアは治療薬の一部を予防のために使用しています。

西ナイル熱とデング熱の2つは、現在のところ予防接種も治療薬もありません。

デング熱と黄熱は共に、ウイルス性出血熱の仲間で、表Bで説明してあります。日本脳炎は東はパプアニューギニアを含む南太平洋諸島、南はオーストラリアの北東部まで、西はスリランカまでと広く分布しています(インドについては不明です)。

西ナイル熱は、元来、熱帯アフリカに存在して風土病的に流行を繰り返していたものが、1999年、米国東海岸に侵入し、その後4〜5年で米国各州に広がったことは既にお知らせしました。ダニ脳炎は、ヨーロッパ特に以前のロシアに分布しているものが重要で、人ばかりでなく羊や牛にも感染します。もし人が、正規の販売ルートを経ない、これらの感染した動物のしぼりたての乳を飲むと感染します。つまりリスク7とリスク1の2つの感染経路で感染することになります。

□UP□

表C−II   「熱帯地域の昆虫感染症」

昆虫名
熱帯南アフリカ
熱帯南アメリカ
ヤブカ デング熱 デング熱
ヤブカ 黄熱 黄熱
ネズミのノミ ペスト ペスト
ハマダラカ マラリア マラリア
各種のカ フィラリア症 フィラリア症
サシチョーバエ リーシマニア症 リーシマニア症
ブユ オンコセルカ症 オンコセルカ症
ツェツェバエ アフリカ・トリパノソーマ症 なし
サシガメ なし アメリカ・トリパノソーマ症
メクラアブ ロア糸条虫症 なし
ヒメダニ 回帰熱 なし

気象と昆虫媒介感染症について考えてみたいと思います。

近年、地球規模で起きている「高温気象」に関連して、熱帯医学の専門家の中には、高温気象は、昆虫媒介感染症を媒介する昆虫の増殖に有利な条件となり、その結果、昆虫媒介感染症の感染者の増加と流行の拡大が起きるのでは無いかと心配する人が少なくないようです。この問題を考える上で、現在、世界の熱帯地域ではどのような昆虫媒介感染症が存在するかを知ることが出発点ではないかと考え、まとめたものが表C―Uで、情報源は、「International Travel and health, who」です。サハラ砂漠より南方から南アフリカより北方までの熱帯アフリカと、アルゼンチンより北方、ベネズエラの北端までの熱帯南アメリカについての情報です。

表C―Uから、デング熱、黄熱、ペスト、マラリア、フィラリア症、リーシュマニア症、オンコセルカ症、の7種は大西洋をへだてた2つの熱帯地域に存在することが判ります。これらの感染症を媒介する昆虫にも違いのないことが判ります。以上のような結果から直ちに、地球温暖化がこれらの昆虫媒介感染症の増加と、分布の拡大に繋がるという結論にはなりませんが、監視の指標の一つにはなるでしょう。以前、表Aの1971年から2004年までの感染についてのトピックスに示したように、新種の昆虫媒介感染症も念頭にいれる必要があると思います。


2006年4月28日
  風土病はその常在地だけにとどまるとは限らない
  風土病の一つである“マラリア”
  ペスト
  デング熱
  エイズ
1971年から2004年までの感染症についてのトピックス
“出血熱”の種類 感染経路、死亡率及び分布
肝炎
ワクチンについての2つの見方

「海外で健康にくらす」
予防接種、感染症への対応

OMC
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医学博士
渡辺 義一
 
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制作:海外生活(株)